脳の注意機能について

注意の重要な機能は,膨大な入力情報の中から有益な情報を優先的に選び出すことであり,このような選択的機能としての注意を選択的注意と呼ぶ.関連して,選択的注意が特定の場所に向けられる場合,その注意を空間的注意と呼ぶ.

 代表的な空間的注意の実験としてPosner パラダイムが挙げられる.Posner パラダイムとは刺激検出の反応時間によって空間的に選択された注意,空間的注意を定量的に測定した実験である(Posner et al.,1980).課題は視野のある部位に手掛かりを提示し,注意を誘導させる.注意を誘導させた部位に反応を要求する刺激が提示された試行(valid condition)とそれ以外の場所に刺激が提示された試行(invalid condition)の反応時間を比較する.外的手掛かりによる自動的な注意の誘導では,SOA(第一刺激の開始から第二刺激の開始までの時間間隔)が短い場合には,valid条件の成績がinvalid条件の成績より勝る.しかし,SOAが200msを超えるとこの現象が逆転する.これを注意の復帰抑制と呼ぶ.なお手掛かり刺激がCentral cueでは生じなく,peripheral cue において生じることから,この現象は,注意の役割が環境を均一に広く探索することにあると仮定すると合理的な機能と言える.
 
 また視覚探索実験においても空間的注意と反応時間との関係が観察される(Treisman & Gelade.,1980).視覚探索課題では,被験者は標的刺激が画面の刺激配列の中に含まれるか含まれないかを答え,この答えを出すまでの反応時間を測定する.結果は課題内容によって2通りに分かれる.1つは目指すターゲットとそれ以外の刺激(妨害刺激)をあわせた数(対象の総数)が増えるに従いターゲットを見つけるのに要した反応時間が長くなる場合であり,これを逐次探索と呼ぶ.一方で妨害刺激の数に依存せず色や形の対比によって標的刺激が一瞬のうちに浮かび上がる場合を並行探索と呼ぶ.この逐次探索に対する1つの解釈として特徴統合理論がある.この理論は複数の特徴を統合するには能動的な注意が必要であること(illusory conjunction)を示している.この特徴統合理論を支持する神経心理学的所見が見受けられている.Cohen and Rafal (1991)は,左側頭頭頂葉領域に損傷がある症例に対し,実験を行っている.課題は中央に提示される2つの数字のうち大きい方を報告し,次に文字の色,文字の種類を報告させるという内容である.結果は,損傷を受けた半球と反対側の刺激に対して,個別の色は正常に知覚できるのに対し,色と文字を結びつけることに難を生じた.
 また,頭頂後頭葉領域に同時失認症例においても特徴統合の障害が生じたと示している(Friedman-Hill,Robertson,& Treisman.,1995).
 これは特徴の知覚とその統合とに異なる注意の機構が働いていることを示唆している.