視覚の頭頂葉の伝達経路について

1)背側系での視覚情報処理について
背側系での情報処理には大きく分けて2つの経路があると考えられる.つまり,背背側と腹背側の情報処理である.
背背側の流れはよく「いかに系」と言われており,ある外部対象,または自己身体に対する精確な位置情報のモニタリングや運動行為に寄与され,自覚とは無関係に働くとされる.背背側の視覚情報処理の多くの機能が頭頂間溝内にあるとされている.この多くの機能の内,到達動作と把握動作について下記に述べさせて頂く.

①到達動作
到達動作を行う際に,重要とされる脳の部位としてMIPが挙げられ,視覚情報と体性感覚情報の両方の情報処理に関与しており,特に視覚情報の関与が強いとされている.このMIPが損傷すると,視覚対象に正確に手を伸ばすことが困難になる視覚性運動失調をきたす.

②把握動作
把握動作を行う際に,重要とされる脳の部位としてAIPが挙げられる.AIPもMIPと同様に視覚と体性感覚の両方の情報処理を行っているとされるが,特に体性感覚情報の処理の関与が強い.我々が何気なく対象を摘む際,指の開きは自然に対象の幅に一致するが,MIP損傷症例の場合,自然に一致させることが出来なくなるため,指間の開きをいつも同じにし,対象に指が接触してから閉じるなどの意図的な代償を行うことが多い.しかし,Goodaleらは,上記のような把握障害を示すMIP損傷症例に対し対象物のわきで,その対象物を摘む真似を行うと正確な把握が出来ると報告をしている.
一方,腹背側の視覚情報の流れはよく「どこ系」と言われ,運動視や空間の知覚に寄与され,その知覚情報は意識上にのぼる.腹背側の視覚情報の損傷例としてよく知られているのが半側空間無視と言われる症状である.
半側空間無視という症状は特に,右頭頂葉領域に損傷した症例に多く,損傷側の対側にあたる左側空間を無視したケースが多い.その症状にもさまざまなものがあり,自己身体の半側を無視する場合や,自己を中心とした物体空間を無視するケースがある.また近位空間のみを無視する症例(Berti A.,2001 ,Halligan et al., 1991),または遠位空間のみを無視する症例(Ackroyd K.,2002 , Cowey et al., 1999)も報告されている.半側空間無視症例のうち,背背側の流れが保たれている症例の無視側視野にリーチングを強制的に促すと正確に対照を捕えることが出来る.これは背背側のリアルタイムの運動系と腹背側の意識系とに乖離が見られることを示す.