脳の可塑性について

脳の可塑性とはシナプスが再構築されることである.
 シナプスの再構築は神経活動とシナプス伝達の結果として生じる.視覚系の可塑性について, Torsten Wieselと David Hubel がマカクザルに用いた単眼閉鎖,及び両眼閉鎖と呼ばれる実験操作によって論証された.単眼閉鎖を出生後すぐに施行すると閉じられた眼の有線皮質第Ⅳ層の眼優位円柱が拡大する一方で,開いている眼の円柱は縮小することが示された.また,この単眼閉鎖によって生じる影響は,すでに開いていた眼を閉じ,逆に閉じられた眼を開けることで容易に逆転する.このように出生後もかなり動的にシナプスの再構築が生じることが示された.
 しかし,シナプスの再構築は一生にわたり一定の効率で生じるのではなく,特定の行動を習得するためにはそれに適した臨界期があり,この時期を逃すと習得が難しくなる.例えば,先天盲症例は,点字を読む際にV1が活動することが知られているが,これが年齢に依存することが示されている( Sadato et al,. 2002 ).最近,このような盲目の症例に対し,開眼手術が行われるようになってきているが,V1で触覚情報を補っている症例ほど視覚情報を認識することが困難になることが示されている.